医療用ウィッグのフィッティングとカットの基本
医療用ウィッグのフィッティングの基本
医療用ウィッグを自然に見せるために最も重要なのは「フィット感」です。
どんなに高価なウィッグでも、頭の形に合っていなければ不自然さが目立ち、患者さんにとって大きなストレスになります。
頭の形やサイズは測らない
フィッティングは、サイズを測る会社が多いと思いますが
私は一度も測ったことがありません。
頭囲を測るときは前髪の生え際から耳の上を通り、
後頭部の最も出っ張った部分をぐるりと一周させるのが基本ですが、
頭の横が張っている人と、
後ろが張っている人が同じ周囲ということもあります。
そういう場合のサイズを調整の仕方は違います。
サイズを測ることは不要です。
脱毛の進行に合わせたサイズ調整
抗がん剤治療中は、最初は部分的に脱毛しても徐々に全体に広がることがあります。初期段階ではやや余裕を持たせ、脱毛が進んできたらサイズを微調整することで快適さを保てます。
フィット感と自然さを両立させるポイント
「きつすぎず、ゆるすぎず」が基本ですが
お好みを伺って調整します。
インナーキャップでも滑り止めにはなります。
またストレートネックの方にはウィッグベルトが有効ですが、サイズ調整をきちんとしたうえで補助的に使います。
カットで自然さを引き出すコツ
カットは美容師の技術が最も活かせる部分です。
医療用ウィッグに求められるものは『もとの髪形』です。
どんなに素敵な髪形のウィッグでも
もとの髪形から離れてしまうと
不自然に感じる患者さんが多いです。
お使いになる方の前髪や分け目、毛流れ、普段のスタイリングの様子、くせ毛の様子、毛量のバランスをインプットして、ウィッグのカットをしていきます。
脱毛前にお会いできる場合は髪形の写真を撮らせていただいて
気なるポイントはメモしておくなどしておきましょう。
また脱毛した後にお会いした場合は、脱毛前のお写真を何枚か見せていただくなどして、元の髪形のイメージをつかみましょう。
もとの髪形では無く、全く違う髪形、例えば「自分の髪質だとできなかった髪形」をご希望される方もいますが、かなり少数です。
私の感覚だと50人に一人ぐらいの割合だと思います。
素敵な髪形の提案より、もとの髪形に近づける工夫を日々行うことが
医療用ウィッグの製作では大事になります。
医療用ウィッグと通常のカットの違い
通常の髪のカットとの全体的には違いは、そこまで多くはありません。
ただウィッグの製品(仕様)により、気を付ける箇所が違ってきます。
それは、ウィッグ自体の植毛方法の違いなどで方法を変えていきます。
顔周りの毛量調整となじませ方
顔まわりは産毛や揉み上げをレザーで作ります。
ウィッグの作りや使う人によって揉み上げに量を変えたりします。
揉み上げや産毛があるだけで自然さが増します。
前髪の扱い方と印象の変化
前髪は被る位置で長さが違ってしまうので
被る位置をきちんと確認します。
(通常生え際より、やや上で被ります)
シザーの傷みについて
「人工毛のカットはハサミが傷むため当店では人毛100%のウィッグのみカットをお受けします」
時折、このような注意書きのある美容室のサイトを拝見することがあります。
20年以上ウィッグのカットをしてきて
そのように感じたことは一度もありません。
たぶん、大昔の人工毛でそういうものはあったのかもしれませんが
近年の人工毛でシザーを傷めるものは出会ったことがありません。
どちらかといえば、若いくて髪質の硬いメンズのカットの方が
シザーや親指の付け根に負担を感じます。
どうして、そのような注意書きをされているのかというと
ウィッグカットの経験不足の美容師さんで、なにか昔の情報を鵜呑みにされているだと思います。
よくあるトラブルと解決法
ウィッグのカットやフィッティングでは、共通する悩みがいくつかあります。
「浮いて見える」
「厚みが不自然」
→ まずは、この被り方を間違っている方も多くお見受けします。
正しいかぶり方の提案を行い
練習をしていただくことも必要です。
また縫製によるサイズ調整はかなり重要になります。
サイズ調整に関しては、後にしっかりとご説明します。
「前髪が重すぎる/短すぎる」
→ 作り直しは難しいため、長めに残しておき、少しずつ調整するのが基本です。
重くなると不自然に感じる方は
産毛としてカットをする箇所を増やします。
セニングばかり入れても限界が」あります。
「頭皮やゴムの締め付けが気になる」
→ ウィッグは通常襟元にアジャスターのゴムベルトが付いており調整するメーカーが多いです。
この調整ベルトだけでフィット感を求めると頭痛の原因にもなりますし、ゴムは数か月で伸びきってしまいます。
ここでも縫製による調整が重要になります。
また縫製のお陰で自然にもあります。
最低限そろえておきたい道具
特別な設備は不要ですが、あると便利な道具があります。
ウィッグの仕事のために特別買いそろえたものを思い浮かべると、
最初はそこまで特別なものはありませんでしたが、仕事を深めていくうち他にも必要になるのですが、最初はこの程度で十分です。
- ウィッグカット用のキャンパス生地のウィッグヘッド:安定させてカットがしやすい。カットウィッグにバリカンを使う人もいますが、断然専用のものの方が効率が良いです。
- いろいろな径のカールアイロン:いろいろな髪形に応じて増えていきました。(最初はあるもので十分です)
- レザー:産毛用です。何種類か使用しましたが使いやすいのはTONIGUYの両刃タイプです。
- 裁縫道具:手縫い用のポリエステルの黒糸。手縫い針。待ち針。リッパー。糸切鋏。
これらは徐々に揃えれば十分です。最初から完璧を目指す必要はありません。
美容師が意識したいこと
医療用ウィッグを扱うときは「完璧に仕上げる」よりも「自然に見える」ことを重視します。
- お客様と一緒に仕上げていく
「前髪はこのくらい?」「耳にかけたい?」と確認しながら進めると、安心感が得られます。 - 自宅で扱いやすい状態にする
美容室ではきれいでも、患者さんが自分で手入れできなければ意味がありません。ブラシの入れ方、被り方の練習を何度もしていただきます。
まとめ
医療用ウィッグのフィッティングとカットは、美容師にとって新しい技術に見えるかもしれませんが、実際には日々の技術の延長線上にあります。
- サイズ調整でフィット感を整える
- カットで毛量や動きを自然に見せる
- 患者さんと一緒に完成形を作り上げる
この3つを意識するだけで、ぐっと自然で安心できるウィッグに仕上げることができます。
次回は「サロン運営編」として、実際に導入する際の環境づくりや注意点についてご紹介します。
ウィッグ講習はがん患者支援団体ikus.医療美容ケア研究会と、
提携して随時行っております。
講習日以外のご希望の方もご相談ください。