医療用ウィッグを扱う前に知っておきたい基礎知識と心構え


治療と脱毛の基礎知識

医療用ウィッグを扱ううえで、まず理解しておきたいのが「なぜ髪が抜けるのか」という基本的な仕組みです。

抗がん剤治療は、がん細胞だけでなく細胞分裂の早い毛根の細胞にも作用するため、治療開始から数週間で脱毛が始まることが多いです。
個人差はありますが、一番治療の副作用が脱毛と感じる患者さんがを多いです。

また、すべての抗がん剤で強い脱毛の副作用があるということではありません。薬によっては髪が抜けない治療もあり、少ない脱毛の副作用の治療もあります。
治療が終われば髪は再び生えてきますが、その髪質は「縮毛」「くせ毛」「細く柔らかい」など変化を伴うこともあります。

さらに、抗がん剤治療だけでなく、円形脱毛症や脱毛症全般、放射線治療の影響で髪が生えにくくなるケースもあります。美容師としては「治療によって髪の状態が変わる」ということを知っておくだけでも、患者さんの不安を理解しやすくなります。

患者さんに寄り添う姿勢

髪が抜けることは、患者さんにとって単なる「外見の変化」ではありません。
「人に会うのが怖い」「家族にも知られたくない」「自分らしさを失った気がする」と、精神的な負担につながります。

このとき大切なのは「無理に前向きにさせようとしないこと」です。
「大丈夫ですよ」「また生えますから」と励ましたつもりの言葉が、患者さんにとってはプレッシャーになる場合もあります。

美容師にできるのは、「安心して話せる相手」になることです。
治療の副作用のお話を聞いてくれる人がいるだけでも、患者さんの気持ちは穏やかになります。
ウィッグのメンテナンスをしながら、お話を伺っているだけで多くの方と同じ症状だなとか、ちょっと珍しい症状だな。など感じてきます。

患者さんが「ここなら相談できる」と思えることが、サロンでの信頼関係につながります。

美容師が知っておきたい配慮

医療用ウィッグを扱うときには、通常の美容施術とは違った配慮も求められます。

プライバシーの確保

脱毛やウィッグのことを、周囲に知られたくないと感じる方は多いです。
完全個室でなくても、パーテーションやカーテンで仕切り、人目を避けられる工夫があるだけで安心感が増します。

体調や治療スケジュールへの配慮

抗がん剤治療中は体調に波があり、予約しても当日キャンセルになることもあります。キャンセル料をどうするか、柔軟に対応できる仕組みを整えておくことが大切です。

清潔さ・衛生管理

治療中は免疫力が低下するため、器具の消毒やクロスの清潔さにも注意が必要です。普段以上に「衛生面の安心感」を示すことで、患者さんに信頼してもらえます。

導入にあたって準備しておくと安心なこと

「やってみたい」と思っても、最初からすべてを整える必要はありません。少しずつ準備していくのが現実的です。

どんなウィッグを扱うかの選定

医療用ウィッグといっても、既製品からオーダーメイドまで種類はさまざまです。まずは扱いやすいものを選び、必要に応じて取り扱いを広げていくとスムーズです。

最低限揃えておく道具

普段の美容師としての道具の他に、サイズ調整も頑張ろうと思ってくださっている方は裁縫道具が必要になってきます。またウィッグの産毛作りにレザーを使用します。特別なものはありません。

信頼できる情報源や勉強会に参加する

講習会や勉強会に参加することで、技術だけでなく他の美容師の経験談も学べます。専門的な情報を持つことで「自分もやれる」という自信につながります。


まとめ

医療用ウィッグを扱う前に必要なのは、特別な技術よりも「基礎知識」と「心構え」です。
患者さんが安心して相談できる存在になることが、最初の一歩になります。

美容師の経験は、必ず医療用ウィッグの仕事に活かせます。
「少し関心がある」という段階からでも、環境を整えることで確実にスタートできます。

次回は、実際に取り入れるときに役立つ「技術の基礎(フィッティング・カットの考え方)」についてご紹介します。